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学校建築の在り方を考える

学校建築の在り方を考える
真に豊かな教育環境とは何か。私立中高一貫校のロケーションと校舎に注目!

美しい校舎群や自然豊かなキャンパスが、子どもたちに与えるもの

「校舎を作るというのは、生徒たちが常にベストコンディションで学校生活をおくることができるというのが絶対条件。快適な空間というのは、冷暖房設備が整っていればいいというのではなく、その場にいるだけでイメージに広がりを持たせてくれることが大切だと思う」そう語るのは、ある名門進学校の新校舎を設計した建築家。
伝統ある私学が多い兵庫県には六甲学院神戸龍谷須磨学園神戸海星女子学院甲南女子(写真右)親和松蔭神戸山手女子など、六甲山系の高台に多くの私学が点在する。
抜群の自然環境とともに、校舎からの眺望は格別なものがある。京都市街を一望できるノートルダム女学院は近くに琵琶湖疏水と哲学の道があり、東山は南禅寺に隣接している。東大寺学園が創設されたのは東大寺南大門のすぐそばで、現在は移転しているものの、周辺には古墳が残っていて遥か万葉の歴史的なロマンを感じさせる。四季折々の変化を取り込んだキャンパスは、中高6年間の学校生活に彩りを加える。
一方、甲陽学院武庫川女子大学附属のように、海辺のゆったりと落ち着いた環境の中で独自の教育を行う私学もあり、こちらも人気が高い。
自然環境の良さや広大な校地ということになると、JRや私鉄などの最寄り駅からある程度の距離があるだろうし、逆に交通の便の良い都市部の私学は、グラウンドを含めた校地面積に制限が出てくる。だが、立地の良さは受験生にとって志望理由の高い位置にある。大阪の市街を南北に貫く谷町筋に沿う大阪星光学院四天王寺清風など独自の教育スタイルに定評がある。

学校という居住空間に必要なのは、機能性はもとより、生徒たちの自由な発想を後押ししてくれるスペース。最近建てられた私学の校舎は、かなり内部空間が明るく清潔感漂う場となっている。建材や工法の技術革新もあるが、従来多かった厚いコンクリートの壁面が減り、強化ガラスの採用や大きな吹き抜け部分であるライトコート(光庭)を設けることによって、十分な採光が可能となっている。安全管理上、明るく見通すことのできる設計は必要だが、子どもたちの成長には「陽」の部分だけでなく、実は「陰」となるスペースも欠かせない。淳心学院(写真上)の校舎デザインがまさにそのあたりのコンセプトを明確に表しているといえよう。子どもたちの本性を考えた教育の実践と、それに応じた環境づくり。これが環境と教育の理想的な関係なのだろう。

京都の洛星では1階から地階へとつづく大階段には天井の高い踊り場があり、東寺境内にある洛南には校舎中央部に菩提樹を中心としたパティオがある。生徒たち自身の創意工夫によって、いかようにも活用できる空間があることに、大きな意味がある。
私学には、各教科を通じて生命の尊さを考える機会が数多くある。理科・生物の時間に校内で四季それぞれの植物を観察して回る神戸女学院では、中学1年生たちが実に生き生きとした表情で野花を摘み、スケッチしていた。自前の環境の中でいかに知的探究心を養えるか、これはその学校の特色づくりに大きく関わる部分ともいえる。私学のいう「自学自習」という言葉の中には、生徒自身が学びに対してアクティブに取り組む姿勢が求められる。学校建築というのは、授業を行うことができればよいという、たんなる「箱」づくりではないのだ。

登録有形文化財の伝統ある校舎から、最新設備を採用する新校舎、著名な建築家による個性的なものまで、私学の学校建築を幅広く紹介

世界的に著名な建築家、フランク・ロイド・ライトが帝国ホテルを建てる際に弟子として来日したアントニン・レーモンド。彼が設計したのが小林聖心女子学院大阪聖母女学院の本館。その建築思想は彼の死後もレーモンド設計事務所として引き継がれ、広島女学院の校舎にも確かに受け継がれている。ウィリアム・メレル・ヴォーリズは、関西学院神戸女学院大阪女学院などを手掛けたほか、活動拠点であった滋賀県近江八幡市には近江兄弟社をはじめ、今でも数々の建築物が保存されている。日本の近代建築では、三田学園の中学本館や、宗兵蔵の手によるの本館も登録有形文化財に指定されている。同校は創立85周年を機に、キャンパス全体を再整備した(※あとの特別インタビュー参照)。
ほかにも、同志社女子の顔ともいうべき栄光館を設計したのは武田五一、甲南女子関西大学第一を設計した村野藤吾も有名。特に甲南女子の安宅記念講堂は細部のディテールまでこだわりぬいた設計となっている。同校の新校舎もまた、村野藤吾のデザインを踏襲したもので、アトリウムのある素晴らしい校舎となっている。四天王寺の正門を入ってすぐの石畳は、東福寺の庭園で知られる著名な作庭家、重森三玲によるもの(写真上)。また、一号館は世界的な建築家として知られる安藤忠雄氏による設計となっている。 私学は、時代の中で何度も試練を乗り越えながら、創立の理念や教育に対する信念を曲げることなく現在まで歩んできた。学校建築の中には、そうした教育に書ける魂ともいうべき情熱が込められている。