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シュタイナーが提唱する「12感覚」

2025年に没後100年を迎える、オーストリア出身の思想家・哲学者ルドルフ・シュタイナー(1861~1925)。彼は哲学博士でありながら、教育・芸術・医学・農業・建築など多くの分野に精通し、各界に影響を与えました。今回は、彼が唱えた「12感覚論」に着目し、私学教育の中で子どもたちの多彩な能力がどのように育まれているかを探ってみたいと思います。

 「五感」(視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚)という言葉を、みなさんはよくご存知だと思います。教育家で哲学者のシュタイナーは、これらに、熱感覚・運動感覚・平衡感覚・生命感覚・言語感覚・思考感覚・自我感覚を加えた12の感覚を提唱しています。 人は目や耳、鼻や舌、皮膚と言った感覚器官を通して様々なことを知覚します。これまで知らなかった「世界」を知るために感覚を駆使し、そこから得た情報をもとに、深く思考することができるようになるのです。12の感覚は、次の3つに分類されます。1.「下位感覚」 肉体感覚とも呼ばれているもので、触覚・生命感覚・運動感覚・平衡感覚の4つを指し、この身体的な活動を知覚する感覚は、主に0歳〜7歳に育つ感覚だと言われています。2.「中位感覚」 これは、感情の感覚とも呼ばれており、嗅覚・味覚・視覚・熱感覚の4つを指しています。これらの感覚は、自然界(周囲)を知覚するもので、主に7歳14歳に育つ感覚と言われています。3.「上位感覚」 聴覚・言語感覚・思考感覚・自我感覚の4つを指し、社会的、精神的な感覚と呼ばれています。他者を知覚する感覚で、主に14歳21歳に育つ感覚と言われています。 日本では、ドイツ文学者・ドイツ語翻訳者で早稲田大学名誉教授の子安美知子先生(1933〜2017)が、シュタイナー教育(ヴァルドルフ教育)を日本に紹介したことで知られています。 画一的な教育ではなく、子どもたちそれぞれが持つ能力や才能を見極め、それを開花させることを手助けすることが、いま学校教育の場で求められています。私立中高一貫校は、それぞれが創設の理念に基づいた教育を展開しており、独自の校風を形作っています。キリスト教や仏教など、宗教の有無はもちろん、併設の大学を持っているかどうか。男子校・女子校の存在など、公立校にはないユニークな取り組みが多いことからも明らかでしょう。 中学や高校という中等教育にあたる期間は思春期と呼ばれ、子どもたちが健全な心身を育むための大切な時期です。様々な感覚が相互に作用し合い、支え合うことで、豊かな感性や情操が育まれます。ここでは、そうした私学教育の一端を紹介しましょう。

1.触覚

アシステンツァの精神が宿る合宿
大阪星光学院

入学後はグループごとにキャンパス内の研修施設に宿泊して祈りとともに学校生活をすごす。同校のモットーはアシステンツァ(共にいること)。長野県黒姫高原に山荘、和歌山県みなべ町に臨海学舎を持ち、多彩なアクティビティーを通じて豊かな感性を育んでいる。

2.生命感覚

男子校ならではの充実した家庭科
洛星

近隣の母子を招いて行われる「赤ちゃん講座」。家庭科の一環として育児体験の一端に触れるとともに、生命倫理を学ぶ講演会なども行われる。キリスト教カトリックの価値観に基づく教育の様子は、本誌18ページからのシリーズ「名門私学探訪」で詳しく紹介。

3.運動感覚

「柔よく剛を制す」を体現する柔道
岡山白陵

文武両道ではなく、文武一体を実践する同校では、男女とも柔道が必修となっている。毎年、校内で大会も行われ、夏場や冬場の道場での稽古は厳しいが、鍛錬を通して培われた精神性は学問探求の場においても発揮。教養と創造性を持った節度ある人を目指している。

4.平衡感覚

名物行事「しまなみ海道夜間歩行」
開明

中学3年の卒業行事として広島県井口島の瀬戸田町海洋センターを15時半に出発。来島海峡大橋を渡り愛媛県今治市の糸山公園に到着するのが朝6時。約43kmの夜間歩行では、睡魔に襲われ平衡感覚を無くす時もある。仲間の支えや自らの強い意志が求められる。

5.嗅覚

「生物」の授業で見た本物の体験
広島学院

中1の理科「生物」では、アメリカの医学生たちが使う教材を用いて解説中。この日は心臓の働きがテーマで、先生が持参した豚の心臓が生徒たちの間に回されると、表面組織や断面の形状を観察だけでは飽き足らず、匂いを嗅ぐ好奇心旺盛な生徒の姿も…。

6.味覚

「自由と清新」を感じるランチ
立命館守山

同校を含め立命館大学の併設校では、食堂はカフェテリア形式。主菜や副菜、大小さまざまな小鉢にはすべてカロリーや栄養素などが表示されており、それらを見て自分で主体的にメニューを組み立てる。私学教育には至るところに創立の理念が根付いている。