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未来のライフ・デザインを考える ~私立中高一貫校の学校生活シミュレーション~

グラフックデザイナー・佐藤卓さんのデザイン学概論

「明治おいしい牛乳」やロッテの「キシリトールガム」「クールミントガム」のパッケージデザインなどで知られるのが、グラフィックデザイナーの佐藤卓さん(株式会社TSDO代表)。昨今はNHK教育テレビ「デザインあ」の監修や展覧会の企画に至るまで、多岐にわたる活躍でデザイン界のトップランナーとして走り続けている。東京・銀座にある佐藤さんのオフィスで、デザインの意味について伺った―

聞き手/小松原健裕(日能研関西代表) 取材協力/株式会社TSDO
撮影/井原淳一 文/橘 雅康

デザインというのは、相手への気遣いそのものなんです

デザインとは何か、その意味と役割を考える

佐藤卓さん(グラフィックデザイナー/株式会社TSDO代表)日能研と言えば、中学入試問題を掲載した「シカクいアタマをマルくする」という電車内の広告が有名ですね。何を隠そう私自身も、いつも問題を解きながら「なかなか難しいな」と刺激を受けているんです(笑)。おもしろいですよね。塾の中身を宣伝するのではなく、問題をみんなに解かせる中で、結果として塾としてのブランドイメージをちゃんと高めていますから。

小松原健裕(日能研関西代表)そう言っていただけると光栄です。ありがとうございます。
今回の特集は「私学で考えるライフ・デザイン」ということで、子どもたちが中学受験を経て入学した中等教育の場で、将来をどんなふうに設計していくのかを誌面で伝えることになります。誌面を組むにあたり、ます先生にデザインそのものについてのお考えを伺いたくて参りました。
「モノを形作る」あるいは「設計して何かを生み出す」という中で普段何か感じておられることがあればお聞きしたいと思っています。

佐藤 その前に―つ確認したいのですが、昔からよく「今の子どもたちは……」なんて言われ方をしますね。実際、進学塾で子どもたちを見ている立場としてどうですか。

小松原 子どもの本質というのは変わらないかと思うのですが、ただ、最近よく社員との間で話をするのは、子どもたちの利き分けが良すぎるというか、いわゆるお利口さんが多いよねと。私自身が小学生の頃は、黒板消しを教室の扉の上にセットしたり、授業でも何とか先生に負けないようにくってかかったりするようなタイプの子どもが大勢いました。そういう意味では、物事を受け身でとらえる子どもが増えているようには思います。裏を返せば、積極的にチャレンジするタイプの子が減ったような印象を受けます。

佐藤 やっぱりそうなんだね。その感覚はとてもよくわかります。昔は教壇からチョークや黒板消しが飛んできましたし、先生の方も強かった。だから、壁になってくれる大人を相手に、思春期の反抗も成立していたわけですよね。

小松原 最近は反抗期がないという子もいるようです。人が成長する上で、何でも与えられることに慣れてしまっている子どもたちというのは、この先とても心配です。子どもたちなりに自分の将来をしっかり考えてほしいと思っているんです。

佐藤 なるほど。将来を考えることも、未来をデザインすることですからね。
では「デザインの意味」について考えることから始めましょう。
デザインというのは、とかく色や形、あるいは格好いいものやおしゃれなものとか、そういうイメージを持っている人が多いと思います。でも実はデザインと関わりのないものというのは何―つありません。
たとえば、日頃使っている「文字」がそうですよね。活字というのは、明朝体にしてもゴシック体にしても、もとは誰かが一文字ずつ書体として作ったから、いま誰もがパソコンで打つことができます。生活雑貨や家電製品、窓の外を見れば道路標識や建物、道そのものだってデザインされたものです。都市が円滑に機能するために街づくりそのものも設計されているわけですからね。
もっと身近な体験で言えば、誰でも自分の机の引き出しの中にものを詰めているでしょ。無造作に放り込んでいる場合は別ですが、普通は二番上の引き出しは文房具にする」と大きなくくりを決めれば、今度は使いやすいように「定規は右側に」「はさみやカッターナイフなど切る道具は左側に」などと、配置を考えるはすです。これがすでにデザインなんです。

小松原 人の営みに関するすべての物事において必要なもの、ということですね。

佐藤 我々が着ている洋服にしても髪型にしてもそう。いま目の前にあるこのテーブルをよく見てください。角が削られアール(曲線)を描いています。角があればデザインとしてシャープでモダンな印象を与えますが、使う人が手をけがするといけないからと丸めてあるのかもしれません。つまり、この世にあるありとあらゆるものをつなぐ場面には、必すデザインが存在するんです。