- 中学受験応援サイト『シガクラボ』
- 特集
- 学校建築の在り方を考える
学校建築の在り方を考える
建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズ(1880~1964)によって設計された私学のキャンパス
1900年代初期から、同志社・関西学院・神戸女学院・大阪女学院といったミッションスクールの校舎やキャンパスのグランドデザインを設計したヴォーリズ。首都圏でも東洋英和女学院やフェリス女学院など、伝統ある名門校の建築設計に携わっている。
避暑地として知られる長野県の軽井沢は、英国人牧師A.C.ショウによって拓かれ、アメリカやヨーロッパの宣教師たちが教派や会派を越えて集った。ヴォーリズも来日して早くからここに建築事務所を構えたことから、全国各地のミッションスクールで教育に関わる宣教師たちとは、自然と深い結びつきになった。学校建築を依頼する施主にも懐かしい母校があることから、彼はその思いを汲みながら、日本の環境に合わせて校舎を設計。建物のディテールや形、動線計画などを考えるにあたっては、「学校を建築するなら、まずその教育についての見識を持たなければならない」と語っている。これは住居を設計する場合も同じで、施主の人となりを知って、はじめて真の設計ができると考えたという。
重要文化財に指定された神戸女学院のキャンパス
1875(明治8)年に神戸・山本通りに創設された同校。1933(昭和8)年の現行地・西宮市岡田山への移転に際し、ヴォーリズが広大なキャンパスをデザインした。自然あふれる中に、洗練されたスパニッシュ・ミッションスタイルの校舎群が美しく点在する。これまで登録有形文化財の施設が幾つかあったが、2014年秋には創設時の12棟が「重要文化財 神戸女学院」として国の指定を受けた。
ヴォーリズが大切にしたのは、生徒一人ひとりの生活シーンを想像し、とっておきの場所になるための空間作り。神戸女学院には本質的な人間のあり方を学びながら自分が将来どう生きていくかという「リベラル・アーツ」の精神が息づいていて、四季折々の自然に接しながら、生徒たち自身が内省できる空間づくりを意識したという。噴水のある中庭や回廊にあるベンチ、芝生のグラウンド、藤棚など、校舎以外にも人と人とが出会う場が数多く設けられているのも特徴となっている。ヴォーリズ建築が「優しい」と評されるゆえんだ。淡いクリーム色の壁面に、赤・茶・ブロンズ色の瓦屋根、アーチ型の窓や装飾など、独特の意匠により、ゆったりとした時間と空間が生み出されている。