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未来のライフ・デザインを考える ~私立中高一貫校の学校生活シミュレーション~

トップランナーとして常に走り続ける、その源にあるもの

小松原 このデザインという分野の第一線で走り続けることができるのはどうしてか、先生ご自身はどんなふうにお考えですか。

佐藤 自分の知らないことを知った時の喜びというものを、身を持って感じられているということでしょうか。あとはやっぱり好奇心!
子どもというのは知らないことへの興味が半端ないでしょ。でも、大人は様々な社会経験を積んでいくうちに、すべての物事を概念化することで納得しようとするようになるんです。それで、だんだん純粋な好奇心がなくなってくるわけです。
以前、『デザインの解剖』という本を出版して展覧会も開きました。私は菓子のパッケージデザインもしていますが、たとえば「この菓子はなぜこういう形をしているのか」「材料は何なのか」「噛んだ時の食感はだれが考えているのか」など、疑問に思うことはクライアントである企業の担当者に細かく確認して、好奇心のピースを一つずつ埋めていきます。菓子一つ取り上げてもこんな感じですから、企業の設立趣旨や理念、沿革も含めると膨大な興味の山になります。そうなると、工場まで足を運んで技術を確かめたり、働いている方々の表情を見たりだとか、もう体が動き始めていますね(笑)。
こうしたフィールドワークを通じて、社員でも気づかない財産とも言うべき価値を発見することも数多くあるんですよ。

小松原 「好奇心」というのは、やはり大きなキーワードですね。

佐藤 子どもたちがこれから先にどんな生き方をしようとも、身の回りには様々なデザインがあふれています。どんな道に進もうとも「デザインマインド」は必要ですから、ちゃんと意識することは重要でしょうね。毎日の生活場面の中で「もっとこうした方がいいかな」と考えたり、「自分には何ができるだろう」とヴィジョンを持ったりすることなんだろうと思います。
世の中の多くの方は、形のある「もの」をデザインすると思っているでしょ。それってとても表面的ですよね。でも実は、ものの奥にある「こと」と「人」をつなぐというのがデザインの本質です。椅子であれば、「座ること」と「人」をつないでいるということになりますし、この取材で使われているレコーダーも、「録音すること」と使う「人」が繋がっているわけです。つまり、デザインというのは、言い換えると使う人への「気遣い」なんですよ。

小松原 最後に、子育て中の保護者のみなさんや子どもたちへのメッセージをお願いします。

佐藤 親も学校の先生も「やりたいことがないのはだめだ」みたいなことを言いがちでしょ。でも、子どもというのは本来的に興味のあることを自然に見つけるものですよ。なぜ周りが焦らなければならないんですか。一時、「自分探し」や「自分らしさ」というような言葉が教育の場でもよく使われていましたが、あれは最悪ね(笑)。そんなことを言わなくても、身の周りの人や世の中のことを考えていると、足りないものがわかり、次の行動が見つかるというものです。あれは大人が子どもに押し付けている最たるものだと思います。生きる上で「余白」をどう作るか、大切なのはここじゃないですか。それは遊びととらえてもいいし、何もしない時間ととらえてもいい。いずれにせよ、心のどこかに余裕がなければ、何かを自分でカスタマイズすることはできませんからね。

佐藤卓(さとう・たく) 1955年、東京生まれ。1979年、東京藝術大学デザイン科卒業。1981年、同大学院修了。株式会社電通を経て、1984年、佐藤卓デザイン事務所設立。商品のパッケージデザインをはじめ、美術館や博物館、大学等のロゴやシンボルマークなどを手掛ける。また、展覧会企画、NHK教育テレビ「デザインあ」「にほんこであそぽ」の監修など多岐にわたって活躍。著書に「デザインの解剖」シリーズ、「塑する思考」など。