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ロボティクス

みなさんは「ロボット」と聞いて、何を思い浮かべるでしょう。

マンガやアニメーション、CG(コンピュータ・グラフィック)を多用した映画に登場するような、人間の形をしたいわゆるヒューマノイドをイメージしませんか。

現実の世界では、製造業や工業でオートメーションロボットとして使われたり、危険な災害救助現場で人の代替としての役割を担ったり、あるいは身体機能をサポートする医療用のものとして使われています。

さらに今、人工知能開発の飛躍的な進歩とともに、ロボットはコミュニケーションや癒しのツールとして、身近な暮らしの中に増え始めているのです――

スペシャル・インタビュー
ロボットクリエーター/東京大学先端科学技術研究センター特任准教授
高橋智隆さん+RoBoHoN

ロボットと共に「時代」を創るクリエーター

高橋智隆(たかはし・ともたか)1975年、京都市生まれ。京都大学工学部物理工学科メカトロニクス研究室卒業後、京都大学学内入居ベンチャー第一号として2003年に株式会社ロボ・ガレージを創業。現在、東京大学先端科学技術研究センター特任准教授、大阪電気通信大学メディアコンピュータシステム学科客員教授を務める。国内外での受賞歴多数。

国内だけの活動にとどまらず、いまや世界あるいは宇宙までもフィールドとして活躍を見せるロボットクリエーター高橋智隆さん。その手から生み出されるロボットたちは、滑らかな動きとともに愛くるしい表情を見せる。他に類を見ないオリジナリティーあふれるフォルムとデザイン、その洗練されたものづくりの原点を探る!

撮影/井原淳一 取材・文/橘 雅康

「ロボットクリエーター」という職種を自ら創り上げた高橋さん。その活動内容は幅広い。ロボットの研究開発・製作・デザインから、受託開発・企画・コンサルティング、ロボット教室の開催、そして展覧会や講演といった具合である。

これまで、ロボット分野は大学での学術研究の一部として存在してきました。基礎研究を中心に実験や考察が行われてきましたが、ものづくりの場ではありませんから、それらの成果を何とかプロダクトに生かしたいなとは思っていました。そのためには研究とは違うスタンスでやっていかなければならないと思い始めました。自分で会社を立ち上げた時に新しい肩書として「ロボットクリエーター」という名を考え出しました。同期の女子学生などからはさんざん笑われましたけど、やっているうちに少しずつ市民権を得てきたという感じです。実は、今年改定になったタカラトミー社の「人生ゲーム」にはロボットクリエーターという職業が加わりました(笑)。

ロボットづくりには、分野をまたいだ知識が必要です。私は機械系のロボット研究室を出たのですが、情報系や電子系などそれぞれでロボット研究が行われています。いわゆる縦割りなんです。さらにデザインのことや素材のこと、加工のことまでを知っていないと、新しい分野として手も足も出ないのではないかという危機感のようなものを抱きました。

アンドロイドで有名な大阪大学の石黒浩先生のように、アカデミアの中でもユニークな研究をされている先生方というのは、必ずオリジナルのロボットを作っていて、自身で作ったり、あるいは製造環境の整った企業とうまく連携したりしています。

「FT(エフティ)」は女性らしいシルエットが特徴で、動きもしなやかなロボット。

東京・駒場にある東京大学先端科学技術研究センターの研究室を訪ねると、壁面全体がホワイトボードになっていて、黒のマーカーで鉄腕アトムが描かれていた。

物心ついた時から、親が持っていた手塚治虫の『鉄腕アトム』のコミック本を読んでいて、その頃からロボットを作る科学者になりたいと思い、画用紙を切り貼りしたりレゴブロックを組んだりして、ロボットっぽいものを作りました。小学生になると田宮模型の工作キットのギアボックスなどを使い、車輪で動くリモコンロボットを作りました。その後、ガンダム等のプラモデルを作り、「いつか動かしたい」と思うようにもなりました。

当時住んでいた家が琵琶湖の真ん前ということもあって、中学生の頃にバスフィッシングにはまり、その後はスキーにもはまりました。さらに、大学に入った頃は車に夢中でした。興味はいろんなものに移っていきますが、結局またロボットにもどってきたという感じですね(笑)。ただ、すべてが繋がっているという実感はあるんです。

自分でバス釣り用のルアーを作っていましたが、実はその時の工作のノウハウが今に繋がっています。ロボットのパーツ製作ではバルサ材を削って木型を作り、プラスチックを成形してプロトタイプを作りますが、ホームセンターで材料の善し悪しを判断して選ぶところから、どうすれば左右対称に削ることができるのかといった技術に至るまで、この実体験が役立っています。

また、自動車という製品は、平滑度やパネルどうしの継ぎ目などにものすごく気を遣っています。それによってデザインの印象や高級感が大きく変わってきます。そういう格好よさの裏側にある、精度の高さのようなものまで意識したロボットの作り手はこれまでいなかったように思うんです。そう思うと、無駄な経験というのはないですね。

1980年代というのは、テレビ番組でもロボットを題材にしたアニメーションが結構多かった。

私は「機動戦士ガンダム」の少しあと、「超時空要塞マクロス」あたりで育った世代ですね。ただ、鉄腕アトムには、他のロボットアニメや漫画にはないものがあったんです。ロボットを作る過程や設計図が描かれているんですよ。アトムの生みの親である天満博士、人の手によってロボットたちが生み出されているということに強い憧れを持ちました。それはパイロットや野球選手になりたいというのと同じような、よくある男の子の将来の夢みたいなものだったと思います(笑)。

いま私が作っているロボットを見てもらうとわかりますが、デザイン面でアトムの影響を強く受けています。未来になり過ぎない感じというのでしょうか。懐かしい感じであったり、親近感の湧くものであったり、そういうロボットが作り出せればいいなと思っているんです。

高橋さんの生み出すデザインは、すごくシンプルで洗練された感がある。それはご自身のファッションやライフスタイルにも反映されているような印象を受ける。

特にデザインを学んだわけではありませんが、工業製品全般が好きですから、そこから様々な影響を受けていると思います。 ものとしての形が好きで、装飾を加えて「豪華絢爛」みたいな感じはちょっと苦手かもしれません。例えばガンダムはそれっぽい装飾パーツが多くて格好いいのですが、美しいとは思えないんです(笑)。同じことはベルサイユ宮殿など建築物や、空力パーツだらけのレーシングカーなどでも言えます。私は、ものとしての本来の形状に興味があるのだと思います。ただ、ことロボットに関して言えば、シンプルすぎても無機的に感じますから、適度にキャラクターっぽさを加えます。ロボット工学やアニメや漫画のキャラクター、そして工業デザイン、それらのバランスが重要なのかもしれませんね。

デアゴスティーニ社が刊行した『週刊ロビ』は、全70号に及ぶロボット部品つきの雑誌。付属のドライバーを使って毎号少しずつ組み立てていく。会話はもちろん、ダンスなどのパフォーマンスもでき、品切れ続出となる爆発的なヒットを記録した。

  • パナソニックの乾電池CMで知られたその名も「EVOLTA(エボルタ)」。グランドキャニオンの530mもの断崖を、単3電池2本を使って6時間46分で登り切った。

  • 全長30㎝の「CHROINO(クロイノ)」は、ひざをしっかり伸ばして歩くという独自のシステムを採用したロボット。精悍なデザインが特徴。

ある意味、「アトム」のイメージをロボットとして現実化したのが高橋さんだと言える。これまで生み出されてきた数々のロボットを見て、今の子どもたちは間違いなくそれを「ヒューマノイド型ロボット」としてイメージするだろう。

日本の発信するデザインというのは、いまのトレンドも含めて世界トップレベルだと思います。アップルの製品も日本の文化を意識したデザインで世界を席巻しましたし、禅文化のようなものもその背景にあるのだと思います。また、日本でヒューマノイド型ロボットの開発が盛んなのは、多くの研究者やエンジニアがアトムやガンダムなどの漫画・アニメを見てその道を志したことが要因でしょう。更にはそれら作品によって、人とロボットが共に暮らすというイメージを皆が共有している点も大きいと思います。ロボットを擬人化し愛着を感じることで、人の暮らしに溶け込めるのだと広く認識されているのだと思います。

最近になって、ようやくロボットが普及しそうな気配です。IT産業の次はロボットなのではないかと、