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私学の食生活
熟練職人の手によって、丹念に焼かれる創業当時そのままの味
私立中高一貫校はもとより、京都大学や大阪大学といった学校のオリジナル商品として活用される瓦せんべい。その魅力とはいったいどこにあるのだろう。
創業者・松井佐助が生まれたのは大阪南部の河内地方で、周辺には渡来人の窯跡が多く残っており、佐助も古代瓦の収集をするほど、もともと瓦に興味があったという。
亀井堂総本店の創業当時、それまでの幕藩体制から天皇制へと大きく政治が変わる世にあって、巷では南北朝時代に後醍醐天皇に忠誠を誓った楠木正成が注目を集めた。神戸に彼を祀る湊川神社が創建され、佐助は瓦せんべいのデザインに、楠木正成の馬上の姿と、楠木家の家紋である菊水紋を選んだ。
後に瓦せんべいの焼印によるデザインを変えたらどうかと発案したのも創業者で、全国的な知名度と日持ちがすることから、オリジナルのせんべいを作る学校や企業が増えたという。
今回、広報担当・多田育弘さんにお願いして、なじみのある私立中高一貫校のデザインを一部集めてもらったわけだが、そこには錚々たる学校が挙がる。また、関西の国公立・私立大学をはじめ、最近は首都圏の大学からも注文が増えているとか。ぜひとも、それぞれの焼印に込められた意匠を堪能してほしい。
多くの学校では行事やバザーの際に使用される。たとえば親和では、毎年10月、校祖・友國晴子先生の命日にあたる追弔会で生徒に配布される。瓦せんべいを通して、各校それぞれにエピソードがあるのだ。
亀井堂総本店に漂う雰囲気は家族的で、どことなく優しいのには理由がある。今回話を伺った松井泉美さんは小林聖心女子学院出身、しかも全国的にも珍しいサッカー部の初期メンバー。「女子サッカー創設は、神戸女学院に一年先を越されてしまいました(笑)。現在校長を務めるシスター・棚瀬佐知子先生は同期生なんです。医師であった私の父、佐藤脩は灘校の出身で、長く同窓会長を務めていました。私学とは切っても切れない深いご縁を感じていますね」
さらに、現在の四代目社長・松井佐一郎さんと広報担当の多田育弘さんは甲南の同期生。社長夫妻のご子息で、同社の次代を担う隆昌さんもまた甲南の出身。老舗の暖簾を守る方々の中に見える芯の通った強さは、私学の建学の精神や教育理念に通じる確たるものがある。伝統製法を守りつつ、新たな商品開発を行うためには、あくなき探究心が欠かせない。
「かつては、神戸で石を投げれば瓦せんべいの職人にあたると言われていました。いまは国内の伝統工芸分野を始め、職人の数がどんどん減って、後継者不足が深刻な問題となっているのが現状です。私どもの商品作りは手仕事が基本ですから、職人の育成は大きな課題です。技術の伝承、文化を引き継ぐ人材を見つけるのは決して容易ではありませんが、ものづくりに対する情熱や思いなども今後しっかり発信していけたらと思います」(松井泉美さん)