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なぜ、医歯薬系に進学するのか。
心臓外科医の流儀、須磨先生のこれからの生き方とは
大げさに言うのではなく、僕は本当に「心臓」と出会うために外科医になったと、今でも素直にそう思っています。なぜかというと、心臓というのは内臓の中でも、生命を一番実感できる臓器なんですね。まるで一つの人格を持っているかのように思えてくるから不思議です。
患者さんともよく話をするんですが、手術の際、胸を開けて心臓を見た時には「こんにちは。今から直しますね」そんな気持ちで、まず手で触れます。すると、なにか返事をしてくれているような気がします。
心臓外科というのはとても厳しい領域だとは思いますが、それだけにやりがいというか、手術が成功した時の達成感や喜びというのはとても大きなものがありますね。
心臓という臓器は筋肉で出来ていて、毎日休みなく働いているのに疲れません。どう考えてもありえないでしょ。いまだにそれがなぜなのかは解明されてはいないんですよ。一日に10万回、三年でざっと1億回60歳の還暦まで来ると、単純に20億回以上も動いていることになるんです。心臓が休まずポンプとしての役割を果たしているから、体全体が生きて機能するわけですね。つまり心臓というのは、懸命に体中に血液を送り出し、そのうちの一部分だけを自らを養うためにもらっているという献身的な臓器なんです。自分だけよければそれでいい、そうじゃないんです。人間としてこう生きるべきだというメッセージを身を持って教えてくれているのではないかと思えてなりません。
僕は世界40カ国くらいの国々で手術をして回りました。ヨーロッパだけでなく、アジアやアラブ諸国にも行きました。日本人とはまったく見かけの異なる民族ですが、インドで手術をしている時にふと感じたんですね、みんな一緒じゃないかと。
いざ手術で患者さんの胸を開くと、白人の心臓が白くて黒人の心臓が黒いということはありません。金持ちであろうとそうでなかろうと、みんな同じような形態をしています。心を開いて他人と向き合うという意味で「オープンハート」「胸襟を開く」という言葉をよく使いますが、心臓はみな同じ。専門の外科医が言うのだから間違いありません(笑)。
世界中で国や民族、宗教や文化がどんなに異なっていても、中身は同じなんだというメンタリティーをみんなが持てれば、争っていることが馬鹿らしく思えてくるはずです。
僕は今、東京の代官山でハートクリニックを開いています。ここで心臓外科に関するいろんなアドバイスができればと思っています。まったく手術をしないわけではないですが、これまでのように長く病院の手術室にいるということはありませんから、あいた時間でいろんな世代の方々と話がしたいと思っています。僕がこれまでしてきた経験を次の世代につなぎたいと思っているんです。
道を切り拓くために必要なこととは何か。
著書『医者になりたい君へ』で須磨先生が伝えたいこと
いま、海外に出る若者が少なくなったという話もありますね。若い人たちはたとえ近未来的な夢を持っていたとしても、すぐに軽くペラペラと友だちにしゃべってしまう。周りもほとんどは面白がって聞いているだけです。夢というのは自分の中に貯め込んでおかないと膨らんでこないし、花は咲かないものだと思っています。その何百歩も手前ですでに自滅しているのが現状なんじゃないかと思えますね。
思い悩むことがあれば相談しろと大人はよく言いますが、結局本当のところは自分にしかわからないことです。自分で道を切り拓こうとする強い意志が必要なんじゃないかな。そういう意味では、僕は一人っ子であったことで、幼い頃から自分で物事をじっくりと考える時間や機会が多かった。人間の行動学というと大げさだけど、他人の動きでも何でも想像できてしまうようなところがありました。
子どもたちには、ぜひ高い志を持ってほしいと強く願っています。
本書の内容のほとんどは、「子供見学会」に来た子どもたちに話したことでもあり、子どもたちが必ず聞いてくることだったりして、いつか誰でも読んでわかるも のにはしておきたいとは思っていました。出版社側から「14歳の世渡り術」というシリーズで医者という職業について書いてほしいという依頼があり、ちょうど渡りに船といった感じだったんです。必ずしも医者を目指す人だけじゃなくて、人生をよりアクティブに生きるための本だと思ってもらえると嬉しいですね。
須磨久善 (すま・ひさよし)
1950年、兵庫県生まれ。甲南中・高、大阪医科大学卒業。海外・国内での学会発表、公開手術多数。
心臓手術症例を5000以上経験し、1986年に世界に先駆けて胃大網動脈グラフトを使用した冠動脈バイパスを開発し、各国で臨床応用が広まる。
1996年、日本初のバチスタ手術を施行。以後拡張型心筋症に対する左心室形成術を多数行う。
「プロジェクトX」、「課外授業-ようこそ先輩」(NHK)などで紹介。テレビドラマ「医龍」、映画「チーム・バチスタの栄光」等の医事監修を行う。
2010年、海堂 尊原作をもとに須磨の功績を描いた特別ドラマ「外科医 須磨久善」が放映。同年、日本心臓病学会栄誉賞受賞。
2012年、自著「タッチ・ユア・ハート」を講談社から、2014年「医者になりたい君へ」を河出書房新社から出版。現在、須磨ハートクリニック院長。順天堂大学心臓外科客員教授。