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清水 全国的に見ても、灘や東大寺学園のようなタイプの学校では、それでもまだ、目的意識を持った個性的な生徒が多い方だと思います。はみ出し方を知らないのであれば、まず、はみ出す練習をしないといけないですが、それにはある程度の時間が必要です。
進学塾では、1点でも2点でも高い得点をとれるように鍛えますね。中学入試というハードルがある以上、これはどうしても仕方のないことですが、入学した子どもたちに教科が持っている本来の面白みを伝えようとしても、もし3年後に高校受験があるとなれば、そんなことは言っていられなくなります。
中高6年間お預かりするということは、もっと教科として幅のあることや多彩な行事などにも取り組めるということです。大学受験が近づけば、生徒たちは自分でどんどん演習問題に取り組んでいきますから、それまでの間に何を伝えるかというのは、教科担当としての腕の見せ所です

小松原 私たち日能研が教育に明確なポリシーを持つ私立中高一貫校を薦めるのは、6年間の中に子どもたちにとってさまざまなチャンスがあるからです。居場所と言ってもいい。学校生活をおくる中では、いつも前向きな時ばかりじゃない。山あり谷ありのはずです。でも、長いスパンの中ではしっかりと見守ってもらえるという安心感があります。

大森 そう言っていただけるのは私学にとってありがたいことですね。
中3から高1というのは、心身ともに最も変化のある時期です。そこに高校受験が入ってくるとなると、彼らは変化に無理やり逆らってでも鬱屈したものを収めてしまうことになります。それが6年間あると、心に生じた葛藤などを抱えながらも、自分の内発的なものにしたがって過ごすことができるんです。自分の成長に応じる変化に素直に従える、これは6年一貫教育の良さだと思います。教師も成長する様子を見守ることができますから。

清水 教師をしているとよく実感することだと思うのですが、手間のかかった生徒ほど印象深く覚えていますね。成人して一緒にお酒でも飲むことがあれば、きっと「あの時こうだったな。よく成長したな」と楽しい思い出として語り合うことができるでしょうね。
学校というのは、時代の変化に応じて変わる部分もあります。しかし、卒業生たちが郷愁として求めているのは、アナログ的で昔ながらの変わらないものなんですね。時代が変化してもぶれないもの、それこそが私学ならではの理念であったり、校風だったりするのでしょう。

小松原 確かにそうですね。私学は教育の軸がしっかりしておられます。

大森 校風ということで言えば、灘校には特技を持つユニークな生徒が多いのですが、まれに、入学してからクラスの大勢の輪の中に入ることができず、一日を保健室や図書室で過ごすという生徒がいます。ところが、そのうちにクラスの中から「一緒に教室に行こうや」と彼の面倒を見る仲間が自然発生的に現れるんです。大人である教師よりも、むしろ生徒たちの方が仲間に寛容でキャパシティーも大きい。それぞれが抱えている立場なり性格なりを生徒同士が認め合っているんです。

清水 言葉で「個性を認め合いましょう」とか「多様性は大事ですよ」と言うのは簡単ですが、それを生徒たちは、他者との関わりを通して自らも成長し、実現していきます。

大森 実現するためには、それぞれが認め合うための能力を持っていることが前提になければなりません。
多様性を認め合うためには、理解して受け入れる受容力が要るわけです。逆に言えば、校風として受容力がないところでは、個性も多様性も育たないということです。
ある生徒が言っていました。「ぼくは小学生の頃からみんなに『変だ、変だ』と言われてきたけど、灘に入ったら、みんなが変でした」って(笑)

小松原 それは何とも灘校らしいエピソードです。

清水 本当ですね。私は生徒たちによく「奇妙でありなさい」と言いました。奇才であり、絶妙ですから(笑)。風変りもまた良しなんです。

大森 結局はそこなんだと思いますよ、学校としてのあり方が問われるのは。
社会に害を及ぼすのは問題だけれど、そうでないにもかかわらず、他の大勢と比べて変わっているとか、異質なものをつまみ出して排除してしまう傾向が昨今は強いですね。これは学校だけの話ではなく、世の中全般に言えることだと思います。

清水 志望校を選ぶ際には偏差値で入試の難易度を見る前に、中学入試の問題を見る前に、まずは学校の中身をしっかり見てほしいと思います。その結果、この学校が合うと思えば受験校に選べばいいし、何か違うと思えば別の学校を選べばよいわけです。つまづきながらも自分の足で歩かせる学校もあれば、手厚く手取り足取りで導いてくれる学校もあります。そこは、しっかりとタイプを見極めてほしいですね。

小松原 そうですね。進学塾的に言えば、生徒の自由や自治を大切にしている学校もあれば、管理主義的であっても難関大学への進学を目標にしっかりと面倒を見るという学校もあります。また大学を併設していてスケールの大きな取り組みを行う学校もあります。
いずれにしても、さまざまな学校が共存し、選択できるということが中学受験の醍醐味ですから、ぜひとも、ご家庭の方針や子どもの性格に合った学校を選んでほしいと思います。
先生方、本日は貴重な機会をありがとうございました。

灘中・高元教頭大森 秀治 (おおもり・ひではる) 1953年生まれ。灘校には生徒・教員として45年間在籍。2019年3月末に退職。

東大寺学園中・高元教頭清水 優 (しみず・ゆう) 1958年生まれ。大阪府立高校教諭を経て2001年に東大寺学園教諭に着任。2020年3月末に退職。

日能研関西会長小松原 景久 (こまつばら・かげひさ) 1940年生まれ。私立高校教諭を経て71年に現在の日能研に入社。77年に独立し日能研関西設立。